ジルコニウムるつぼで使われるフラックス(融剤)
フラックス(融剤)は試料(耐火性サンプル)の融点を下げる目的で使うものです。ジルコニウムるつぼでは次のようなフラックスが使用出来ます。
- 過酸化ナトリウム: (融点約675℃)
- クロム鉄鉱、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、ルチル(金紅石)、炭化珪素、ある種の合金、鋼鉄などのような耐火材料や珪素を多く含む物質の融解に適しています。他の大抵のフラックスよりも優れています。 ただクロム鉄鉱を融解する場合には1〜2の注意が必要です。 クロム鉄鉱を過酸化物で融解する場合、クロムが酸化されてクロム酸塩になり、るつぼの内壁に黄色い薄膜を付けます。この膜はるつぼで溶解過程を終わってすすいで乾燥させるまで気が付かないことが良くあります。この現象はるつぼが溶液中にある間に酸溶剤(H2SO4)に数ミリリッターの過酸化水素を加えれば防ぐことが出来ます。過酸化水素はクロム酸塩をクロム酸クロムに還元して溶液中に溶かし出します。過剰な過酸化水素は沸騰すれば除去されます。クロムは通常の過硫酸酸化した後還元滴定によって測定します。
炭化珪素や他の微細粒状の物質を過酸化物で融解する場合には別の問題があります。これらの物質は低温で酸化性のフラックスと激しく反応し、しばしば鉄やニッケルのるつぼを一度で焼き切ってしまうことがあります。しかし ジルコニウムるつぼでは以下のようにすれば安全に溶かすことが出来ます。サンプル(通常数グラムのサンプルで充分です)を最初から重量で4〜6倍の粉末の無水炭酸ナトリウムと混合しておき、この混合体に対してサンプル重量の約2倍の過酸化ナトリウムを加えます。そして良くかき混ぜてから混合物を入れたるつぼをかなり低温の炎にかざし、注意しながら縁の部分が溶け始めるまで炎の内外にゆっくり動かします。内容物のスパッタリング(飛散)が終わらない限りるつぼを炎にかざしたまま静止しないようにします。混合物が溶けて静かになった時温度を上げて撹拌しながら通常の融解をします。融解物が赤熱した時に終了します。
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- 炭酸ナトリウム: (融点約850℃)
- アルミニューム、カルシウム、クロム、ニッケルその他の珪酸塩を分解します。またハロゲン化銀やバリウム、鉛などの硫化物も分解します。
- 炭酸カリウム: (融点約910℃)
- 炭酸ナトリウムと同様な働きをします。炭酸ナトリウムと混合して使うこともあります。
- 炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの等モル混合物:
- それぞれの単体と同じように働きますがより低温で溶融します。
- 炭酸ナトリウム、炭酸カリウムフッ化ナトリウム:
- 蛍光分光法でウランを検出する為珪酸塩を溶かすフラックスとして使用します。
- 炭酸ナトリウム、 炭酸カリウム プラス以下の酸化剤(KNO3,KCLO3,Na2O2,MgO,ZnO):
- ヒ素、アンチモニー、鉄、ニッケル、モリブデンそん他の硫化鉄鉱などに使います。
- 水酸化ナトリウム (苛性ソーダ): (融点約320℃)
- すず、亜鉛、アンチモニーなどの酸化鉱用の基本的フラックスです。
- 水酸化カリウム: (融点約360℃)
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- 塩化ナトリウム: (融点約804℃)
- 融解混合物の蓋として使用される中性フラックスです。
- 重炭酸ナトリウム(重曹)、 重炭酸カリウム:
- 脱硫フラックスですが余り使われません。
- 硝酸カリウム: (融点約339℃)
- 強力な酸化剤で基本的なフラックス・炭酸塩と混合して使われます。
- 硝酸ナトリウム: (融点約316℃)
- 硝酸カリウムと同様 の働き
- リチウムメタボレート (メタホウ酸リチウム): (融点約840℃)
- ナトリウムやカリウムそのものの定量を行う場合や、大量のナトリウムやカリウムが蛍光Xせん分析や原子吸光分析に抵触するような場合に使います。多くの酸化物や珪酸塩鉱物に対して使われるフラックスです。
- 炭酸リチウム: (融点約620℃)
- ホウ酸リチウムと混合して使われます。
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- 水酸化リチウム: (融点約445℃)
- フラックスの融点を下げる為に他のフラックスの添加物として使われます。
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- フッ化リチウム: (融点約870℃)
- 蛍光分析の為の融解で炭酸ナトリウム、炭酸カリウムに添加して使われます。
- 炭酸カルシウム・ 塩化アンモニウム:
- ナトリウムカリウムの分析の為にアルカリを可溶化する目的で使われる焼結用フラックスです。
- ホウ酸ナトリウム (ホウ砂ガラス): (融点約742℃)
- 蛍光分析の為の融解で炭酸ナトリウム、炭酸カリウムに添加して使われます。
以上のフラックスはどのような組合せであってもガスバーナーの還元炎で融解を行う場合や、アルゴン、ヘリウムなどの不活性雰囲気を備えた炉であればすべてジルコニウムるつぼで使用出来ます。