分析試料を整える方法として、融解して完全に分解したサンプルを酸処理して溶かすのが最も簡単な方法です。出来上がった溶液は一定の量に希釈し、分量し、原子吸光分析、酸化還元定量、重量分析、分光光度法などの分析に供します。
しかしながら、融解においては適切なフラックスの選定とるつぼの選定が重要です。るつぼは高温に耐え、化学反応に強く、安全で、信頼性が高く経済的なだけでなくサンプルの不適切な汚れ(コンタミネーション)を引き起こさないことが大切です。るつぼにはシリカ、鉄、ニッケル、銀、パラウ(80%金、20%パラジウム)、白金、黒鉛、陶磁器、石英、ガラスなど様々なものがありますが、これらのものは多くのタイプの融解に対して満足出来るものではありません。
たとえば鉄、ニッケル、銀或いは磁製るつぼで水酸化物、炭酸塩、過酸化物を使った融解を行うと大量のるつぼ成分が融解液の中にとけ込んで試料が汚れるだけでなくるつぼの傷みもひどくなります。白金るつぼで炭酸ナトリウム・硝酸塩融解を行った後に塩酸を使うと遊離塩素が白金を侵しますので、このような用途で塩酸は禁物です。白金、パラウ、銀などのるつぼは大変高価でありますが、鉛・すず・アンチモニー・硫黄などを含んだサンプルの融解中に還元反応が起こると簡単に侵されてしまいます。これらは常用するには強度的にも十分ではありません。
石英、ガラス、白金るつぼは重硫酸カリウム融解に使うとシリカがバリウム、カルシウム、ストロンチウムその他の硫化物で溶けないので多くのサンプルは不完全な融解になります。多くの融解をバーナーにかざして行う場合には磁製るつぼなどは突然にひび割れたりする危険があります。
空気を遮断しないマッフル炉で長時間高温に加熱するような融解にはジルコニウムるつぼは適していません。
500℃を超える温度で長時間空気に曝されていますと、ジルコニウムは酸化されます。そしてるつぼの寿命が短くなります。
しかし石油製品、野菜類、食品類のような有機物は550℃を超えない範囲でジルコニウムるつぼ内で強熱燃焼することはできます。この場合残査はるつぼから取り出して計量する必要があります。るつぼそのものが低温においても酸化によって重量増加している可能性がありますのでるつぼ内でそのまま計量するのは精密測定には勧められません。最初の炭化をジルコニウムで行いその後、石英ガラスか他の容器に移して800〜1000℃の範囲で仕上げ強熱するというという使い方もあります
前述のように融解はバーナーの還元炎で行うのが最適です。この方法ではサンプルやフラックスの混合物の種類にかかわらずるつぼはほとんど酸化されません。融解においてはサンプルを重量で4〜10倍のフラックスと混ぜ、るつぼの底に敷いた薄いフラックスの層の上に載せます。
バーナーは換気フードの下で、上面をニクロム線で三角形に組んだ三脚の下に適切にセットします。炎の温度を調節するためガスと空気の量は調節できるようにしておきます。初めのうちるつぼとその内容物はゆっくりその炎の上に持ってゆきます。融解が始まってくるとゆっくりと前後に動かします。
大半が溶け出したら加熱温度を上げ、中身が底に固まらないようにかき混ぜます。るつぼはステンレスのトングを使って、攪拌側の反対側を保持します。攪拌は融解中継続します。融解物が透明になって均質になったり、鮮やかな赤色になったら融解は完了です。融解物はステンレスプレートに注ぎ出すか、るつぼ内で固まるのを待ちます。るつぼ内で固める方がベターです。中身の入ったるつぼは、融解物をるつぼから取り出すために水と適切な溶剤で満たしたビーカーの中に入れます。るつぼに付着した残留物があれば掻き出すか単純に更に溶剤を加えて溶かし出します。この状況下で数ミリグラムのジルコニウムがサンプルの中に溶け出すことがあります。
原子吸光、酸化還元法、比色分析、分光光度法などのたいていの分析では、これは無視できます。しかし、必要に応じていくつかの方法でこれを取り除くこともできます。塩酸、硫酸などの強酸溶液中ではジルコニウムはマンデル酸、あるいはリン酸ナトリウム試薬によって析出沈殿します。ジルコニウムはまた酸溶液中ではクロペン酸によって鉄、チタンなどとともに沈殿します。酸溶液中でクロロホルムによってクロペン化物を抽出する方法はアルミニュームと分離する優れた方法です。ジルコニウムはまた、水酸化アンモニウムあるいは水酸化ナトリウムによっても沈殿します。
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